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このグルメ本は一線を越えている! - 辺境メシ ヤバそうだから食べてみた

辺境メシ ヤバそうだから食べてみた

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高野秀行がまたやってくれた!

2013年の講談社ノンフィクション賞受賞作品「謎の独立国家ソマリランド」でこの作者を知ってからはずっと追い続けてきた。

この作家の作品はとても面白い。

アジアやアフリカ、南アメリカのなかなか気軽に旅行できないディープなところばかりを巡っているので、そこで得られる経験が非常に刺激的なものばかりなのだ。

本人のユーモアのセンスも交わって、彼の書く現地ルポは驚きと笑いが大いに満ちた作品となるのである。

そんな彼の次の作品がグルメに関するものであるから見逃せない。

書店には多くのグルメ本が並んでおり、「孤独のグルメ」をはじめとして食事を題材にしたマンガ作品も多く存在している。

だが、そこは高野秀行。彼の書くグルメ本はそういう数多のグルメ本とは一線を画している。グルメというジャンルから大きく逸脱していると言えるかもしれない。

何しろ、本書の前書きで作者自身が「この本を食事中に読むことは控えること」と警告しているのだ。そもそも副題からして「ヤバそうだから食べてみた」である。これは危険なニオイがぷんぷんする。それでも読みたい、知らない方がよいことでも知りたいというあなた、この本はあなたの為の一冊だ。めくれよ、されば与えられん。

 

第1章の最初のエピソードからド肝を抜かれる。コンゴ共和国でゴリラを食べた話なのだ。最初から飛ばしすぎなのではないかと不安になったのだが、読み進めていくとこれを上回るインパクトが出るわ出るわ。

 アリにイモムシ、タランチュラの素揚げ。蛇にカエルのジュースに猿の脳みそ。ラクダの生肉にヘルシー(?)・モルモット・ランチ。

水牛というまだまともに思えるような(?)食材が登場しても油断はできない。そんなところまで食べるの?というものがバンバン登場する。茹でられてターメリックで色付けされた水牛の精髄。ぶよぶよしたゴムホースのような見た目でまったく食欲をそそられない。脳以外の頭についている部分(目も鼻も耳も)全てを圧力鍋に入れ煮込んだ、頭丸ごとプティング。口にすると最初は驚くほど辛いが、その後凝縮された臓物臭、獣臭の「暴風味」に襲われるという....

最終的には「水牛の髄液胃袋包みカリカリ揚げ」。カリッと揚げた胃袋を破ると猛烈に濃厚な汁が溢れ出てくるそうな。「油より濃い栄養素の固まり」という表現からは、むしろ消化するのにカロリーを使いそうなレベルの食品であることが感じられる。

ここまで徹底的に食べられれれば水牛としても本望かもしれない。

さらにここでは書くのを控えようと思うレベルのとんでもない餃子料理も登場する。ぜひその正体は本書で確認してみてほしい。知らない方がいいかもしれないが。

 

本書は7章にわかれており、南米やアフリカといった地域ごとのエピソードが各章にまとまっている。北米とオセアニア地域以外は全て網羅されており、この作家が本当に世界中の色々な地域を訪れていることに驚く。アジア地域に関しては「東アジア」「南アジア」「東南アジア」と別々に3章が割り当てられている。「日本」の章もアジアと考えれば4章分だ。それだけ紹介できるエピソードが多いということで、食文化の多様さ(?)に感心するばかりだ。 

 食文化というのは本当に面白い。こちらからみれば「なんでそんなもの食べるの?」と驚くようなものでさえ、現地の人からすればそうするだけの歴史的、地理的な理由がある(少なくてもかつてはあった)ということがこの本を読むことで理解できる。ような気がする。文化は相対的なものなので、日本で普通に食べているものこそ外国人にとっては目をひそめるようなものもあるかもしれない。この本の「日本」の章を読めば、我々の食文化も相当ユニークなところがあるということを客観視のではないだろうか。

ちなみに日本でもムカデの唐揚げ、豚の脳みそ炒めなどの料理を提供しているところがあるらしい。本書では新宿にある「上海小吃」(シャンハイシャオツー)というレストランが紹介されている。

本書を読んで珍味に興味の出た方は試してみてはいかがでしょう。

 

 高野秀行の他の著作はこちら。どの作品もエッジが立ってて非常に刺激的。

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イスラム飲酒紀行 (講談社文庫)

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