THE戯言

Quitters never win. Winners never quit.

夏休みの読書シリーズ(3)その学び、下戸にとっては迷惑以外の何物でもない!?「人生で大切なことは泥酔に学んだ」

第3弾は「人生で大切なことは泥酔に学んだ」。日本の偉人たちの酒における失敗談をよくもまあこれだけ、というほど詰め込んだエッセイだ。

人生で大切なことは泥酔に学んだ

人生で大切なことは泥酔に学んだ

 

これがまあ、めっぽう面白い。そもそも人が酒によって異常な行動をする様子は見ていて面白い。自分に危害が及ばない限りはという条件付きではあるが。エッセイであればこちらの無事は保証されている。であれば面白いのは保証されたようなものである。 

日本の偉人の酒の失敗を集めている、というがその失敗の内容は偉人でなく一般人のものであったとしてもヤバイものだらけだ(一般人のものであれば記録に残ることはなかっただろうが)。ヤクザに殴りかかるというなんていうのはジャブみたいなもの。失明のリスクを恐れず燃料アルコールに手をだす命知らずのエピソードや上司の奥さんの前に全裸で立ちふさがるという命知らず(社会的に)のエピソードがバンバン登場する。

さらには庭で日本刀を振り回す、大砲を誤射するなどという、もはや現在の日本では再現したくともできないであろう話まで登場する。今の時代に生まれてよかった。

取り上げられる人物も多岐に渡る。中原中也太宰治など、すでに酒に関するお行儀が悪い人たちは当然のこと、三船敏郎梶原一騎力道山などはこの本に名を連ねていても違和感はない。ただ小林秀雄福澤諭吉の名前を見つけた時には意外だった。

それもあってなのか、福澤諭吉のエピソードが強く印象に残っている。前述の上司の家で酒を飲んだ際に、上司の奥さんに対して全裸立ちふさがりという暴挙に出たのはこの福澤なのである。『福翁自伝』にはこれ以外の全裸事件やその他の酒絡みのエピソードが出てくるという。このエッセイを読んだ後に『福翁自伝』に手を出してみようという人は少なくないはずだ。

著者によるこのパワーセンテンスが強烈なインパクトを残している。

慶応義塾大学で不祥事が起こると最近は「諭吉が泣いている」という表現が使われるが、かつては諭吉とその仲間達に泣かされた人も少なくなかったのだ。

 さて、これらの強烈なエピソードから著者はいったい何を学んだというのか。「リスク管理編」や「宴会編」と、失敗エピソードをいくつかケースごとに分類して学びを得ようとしている努力は感じるのだが、個別ケースが「大事な仕事を抱えながらアル中になったら」や「一日八時間でも呑みたかったら」と尖りまくっているので、どこまで先人の体験が役に立つのかわからない。申し訳程度に教訓を得ようとする体裁を整えているのではという疑念は正直消えない。

率直にいって、自身も呑兵衛である著者が、自分よりもひどい失敗をしている人をみて「自分はまだマシな方だ」と安心するための研究の結果、というのが本書の立ち位置として正しいのではないか。

結論からいいて、著者が泥酔に学んだという人生で大切なこととは「酒を呑んでしくじったところで人生は終わらない。」ということだろう。本書はめちゃくちゃ面白いので、著者に才能があることは間違いない。有能な人物がポジティブな学びを得たことは素直に喜ばしいことなのだが、偉人だからこそ人生が終わらなかったということはいえないだろうかと心配になる。同じくらいひどい失敗をした凡人が、それによって人生が終わってしまったケースもあるのではないか。

著者にはぜひ後世に名を残すレベルで偉業を成し遂げてもらって、少々の酒の失敗は不問にされるレベルの偉人になってもらいたいとおもう。

 

とりあえずこれから「福翁自伝」を読まなければ。

新訂 福翁自伝 (岩波文庫)

新訂 福翁自伝 (岩波文庫)