THE戯言

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夏休みの読書シリーズ(1)このうえなくリアルな国際金融の話「金融ダークサイド」

金融ダークサイド 元経済ヤクザが明かす「マネーと暴力」の新世界
 

お盆休みに入ったので、本を読むまとまった時間がとれるようになった。せっかくなので、読んだ本については備忘の意味も込めてこちらで紹介していこうと思う。

 

まずはこちらの本。一般の人が知り得ない複雑怪奇な国際金融の裏側をつまびらかにしているとして発売当初から話題になっていた「金融ダークサイド」。ダークサイドと銘打たれているのは、取り上げているトピックが主にマネーロンダリングの話になるからだろう。とはいえ、ロンダリングの手法自体は非合法ではない。国際金融の世界では日常的に行われている、合法的な運用方法だ。少なくともこの本で紹介されている方法についてはそうである。ロンダリングに薄暗い響きがつきまとうのは、その対象となる資金が非合法活動によって用意されたものだからである。

そう考えると、この本は我々一般人にとっては遠い世界のように感じる国際金融のリアルを垣間見ることができる貴重な資料となるかもしれない。ロンダリングの3つのステップ、「プレースメント」「レイヤーリング」「インテグレーション」を筆者が実際に行った方法を例に説明するくだりは始めて知ることばかりで「へぇ〜」と感心しきりだった。

手っ取り早く3つのステップがなんなのか知りたい人は下記のカジノの例がわかりやすいと思う。

カジノの場合では、犯罪収益をチップに換えることが「プレイスメント」に当たる。そして場に賭けることで、正規のチップと黒いチップが層になるので、レイヤーリングが完成する。賭けの工程で白いチップと黒いチップは統合され、最後に清算して申告するものは申告すればインテグレーションが完了となる。

 これもマネーロンダリングの手法の一つとして実際に行われていることだろうが、当然世界の黒い金をすべて洗浄する方法がこれだけなはずはない。

そして、このマネーロンダリングケーススタディとして多くのページが割かれているのが日産のカルロス・ゴーン逮捕事件だ。ニュースで大変な話題になっていたが、何が起こっていたかを正確に理解していた人は少ないのではないだろうか。作者による事実関係の整理と分析によって、あの事件の問題がどこにあって、ゴーン、日産、検察などの関係者の思惑はどうだったのかということについて説得力のあるストーリーが展開されていく。「私(作者)があのときゴーンにアドバイスするとしたらどうするか」という部分は、作者の金融のプロとしての高い力量がリアルに感じられるところだ。ファイナンスでミスをした上司を助けるための施策を考えるなんて、ビジネスケースとしては完全にブラックな内容だが、読み応えは抜群だ。

 

国際金融は政治の世界とは切っても切り離せない。この世界において圧倒的に特別な立場にいるのはやはりアメリカだ。対テロ戦争という大義名分のもと、国際送金の情報にアクセスできるという特権を有しているはアメリカだけだ。事実上金融システムを支配していると言える。作者は自身の口座を凍結させられた過去もあり、アメリカの恐ろしさについては本書中でなんども強調している。

この圧倒的な特権を有するアメリカに対抗するためにロシアは仮想通貨について開発を進めているとのこと。ロシアの軍事力の拡大はその通貨を支えるための裏付けであるという分析も面白い。つまり金融の世界で優位に立つには軍事力が不可欠という非常に野蛮な話なのだが、これもまた妙なリアリティを感じる。

 

普段聞きなれない単語が出てくることも多く、ちょっと難しいかもしれないが、時間の取りやすいいまだからこそ挑戦してみてもよいかもしれない。

 

 同じ作者のこちらの本も面白かった。マンガで表現がだいぶポップになっているが内容は相当ヤバイものだらけで軽く引くレベル。

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