THE戯言

Quitters never win. Winners never quit.

麗しき誤解のうちに、他人の褌で勝負する - 人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている

 なんというか、今まで目を背けていた自分にとって不都合な真実を水も漏らさぬようなロジックをもって突きつけられた気分です。薄々は気づいていたけど、やはりそこからは逃げられないのかという気持ちになりました。

ただこれは決してネガティブな意味ではありません。学んだことを実行に移すか移さないかという自分の覚悟次第だというところまでクリアになったのは今後の自分のキャリアを考える上で非常にありがたいことだと思っています。

どこの企業も同じだと思いますが、私の会社では仕事で評価されるためのポイントとして「プレゼンス(存在感)」が重要とされています。要は私はこういう成果を出しました、こういう形で会社に貢献していますということが周囲の人間(特に評価をする上司たち)に可視化されることが大事であるということです。

そして、そのプレゼンスをあげるためには様々な方法があり、それは先輩や上司からアドバイスされるような、ある種社内の公式ナレッジとして共有されています。

例えば上司の上司とよく会話するようにして、今自分がどんなことをやっているかをコミュニケーションしておくこと。他のチームのマネージャーとからも評価してもらえるように、何か一緒にプロジェクトを回してみること....こういうことが評価のタイミングで重要になってくるのです。

そして、私はそういう活動に対しあまり積極的ではありませんでした。正直に言って苦手意識すら持っています。

「なんだかんだ言ってもしっかりとした実力をつけて優れたパフォーマンスを出していればちゃんと周りからは評価されるだろう」

そう考えていました。

 

しかし、この認識は甘い。甘すぎる。

それがちゃんと理解できただけでもこの本を読んだ価値は大きかったと思います。

 

本著で主張されていることを一言でまとめると、

『人間には誰しも無意識の「思考の錯覚」があり、それが何かを評価するときに大きな影響を与えている。であれば、その「思考の錯覚」を熟知し、うまく活用することで自分の評価をあげることにつなげようではないか』

ということです。

 

「思考の錯覚」とは行動経済学や心理学などで実証されてきた人間の認知バイアスから生まれるものです。この認知バイアスハロー効果ヒューリスティックス後知恵バイアスなどが代表的な例としてあげられます。このあたりは世界的ベストセラーになったダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』で取り上げられているのでご存知の方も多いでしょう。この認知バイアスによって、本当は正しくないことであっても正しいと思ってしまうというような「錯覚」が生まれます。

本書では、イケメンの政治家はそうでない政治家と比べて得票率が高くなる傾向があるという例があげられており、見た目の良さによって実力が実際以上に評価されるということが紹介されています。

このように、他人が抱く思考の錯覚のうち、自分にとって都合のいい思考の錯覚のことを「錯覚資産」と呼びます。

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この「錯覚資産」を活用することが自分の人生を成功に導く一番のカギであるというのが本書で一貫して語られているストーリーになります。

「錯覚資産」の多い人は、本著の定義では「実力はないが、実力があるように見せかける能力のある人」となります。

本著では「本当に実力がある人」ではなくこの「錯覚資産」の多い人の方が成功しやすいと主張していますが、その理由は下記のようなことが往々にして起こるためです。

会社は、実力タイプよりも、錯覚力タイプの方が有能だと認識するので、錯覚力タイプは、実力タイプよりも、よりよいポジションや成長のチャンスを手に入れられる。

錯覚力タイプは、エリートコースに乗り、いい先輩の丁寧な指導を受け、重要な仕事を任され、みんなに助けられ、実力アップの機会に恵まれる。

実力タイプは、数年後に廃棄が決まっている老朽化したシステムのお守りや雑用ばかりさせられ、ろくな経験を積めず、実力が伸び悩む。

結果として、数年後には、実力においても、錯覚力タイプが、実力タイプを追い抜いているのだ。....

つまり、

「錯覚資産によって、よい環境が手に入り、よい環境によって実力が育ち、実力があるからそれが成果を生み、その成果を利用してさらに錯覚資産を手に入れる」というループが回ることで、錯覚資産と実力が雪だるま式に増えていくという構造があるのだ。

詳細は本に譲るとして、「成果」に繋がる3要素である「錯覚資産」「実力」「環境」の関係を図にすると下記のようになります。

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 ここで重要なのは、成果に繋がるループのうち、実力よりも錯覚資産の方が通過点となっているループの数が多いということです。

つまり、成果を出して成長したいのであれば、「実力」よりも「錯覚資産」を増やした方が圧倒的に効率がよいということです。もしあなたが成長したいのであれば、「スキルアップそのもの」に投資するよりも「スキルアップできる環境を手に入れること」に投資する方がリターンは大きいでしょう。

 

では、どうすれば錯覚資産を増やすことができるのでしょうか?その答えはぜひ本書で確認してみてください。

 

ちなみに私は本書を読んでいるなかで、ソフトバンクグループ孫正義会長が「カンブリア宮殿」に出演した際に言った「麗しき誤解のうちに、他人の褌で勝負する」という言葉を思い出しました。

ソフトバンクは自分で何も発明していない。だが、他人の褌を借りても一つの方法だ。麗しき誤解のうちにガツンと手を組んでしまえ、です。ちっぽけでも、ちっぽけな人が集まれば、何か面白いことができる。 

これこそまさに「錯覚資産」の活用の最たる例であると感じます。現在のソフトバンクグルーブの活躍を見ると、本著の主張には強い説得力を感じます。

 

本著で成功のための秘訣を知ったあと、最後に残されたチャレンジは、どこまで徹底して実行するかだと思います。今まで実力さえつけておけば成功できると考えていた人間が、錯覚資産といういわばペテンのようなものを増やす方向にうまくピボットできるのか。各人の覚悟が問われるところだと思います。

 

 私はこれまで著者のふろむださんのことは浅学にして存じあげなかったのですが、あの尾原さんが思考の師匠と呼ぶ人であり、はてぶで記事を書けば大バズを巻き起こすスーパーαブロガーだそうです。ネットでも多くの人たちが本書をプッシュしています。

 

 

彼のブログ「分裂勘違い君劇場」とTwitterは今後しっかりフォローしていきたいと思います。

 

 

 

 

 本著で出てきた「認知バイアス」について知りたい場合、おそらく世界でもっとも読まれているであろう作品がこちら。ただし、この中で取り上げられている論文の中には再現性が疑わしいものがあるということにも注意しておくべきです。

 

行動経済学の生みの親とも言われる、ダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキー2人の関係と共同研究の歴史を丁寧に記述した一冊。

かくて行動経済学は生まれり

かくて行動経済学は生まれり

 

 

 私が最初に行動経済学という概念を知った本がこちら。非常に読みやすい内容で、当時大学生だった私でも理解できるような易しい表現になっています。

経済は感情で動く : はじめての行動経済学

経済は感情で動く : はじめての行動経済学