THE戯言

Quitters never win. Winners never quit.

新しいおカネの形とそれが可能にする未来社会 - これからを稼ごう 仮想通貨と未来のお金の話

「稼ごう」というタイトルではあるものの、この本は決してお金儲けの本ではありません。 もし財テクやお金儲けに関するヒントを求めているのであれば、この本を読むのは時間の無駄であると言えるでしょう。

本書の帯にて、 

仮想通貨が提示する「これから」の世界でお金の意味を問う

と紹介されている通り、仮想通貨という新しい形のお金が出現しつつある中でそもそもお金というものは何なのか、それがどのように変わろうとしているのかということを説明しています。

 

その上で、今話題になっているビットコインイーサリアムとは何なのか、どういう仕組みで動いているのか、どのような形で生まれたのか、これまでにどのような経緯があったのか、その裏にある思想は何か、このような仮想通貨が意味するものは何か、これによって変わるものは何なのか。本書はこれらの問いを全てカバーしています。主要な仮想通貨の歴史と重要な出来事についておさえておきたい人にとってはこの本が最高のガイドとなるでしょう。これから仮想通貨について知識を深めていきたい人にとっては最初に読むべき一冊です。

 

当然本書の多くのページがビットコインイーサリアムNEMといった仮想通貨の説明に割かれています。私が本書に手を伸ばしたのもスマートコントラクトについてしっかりと理解したいという、どちらかというと仮想通貨そのものに対する興味からでした。社会に対するインパクトに対しても、国際送金の効率化や社会の中のお金の流れの把握が可能になるなど、あくまでも既存の枠組みの中でのメリットについてしか注目していませんでした。

 

しかし実際に本書に目を通してみると、むしろ注目すべきなのは仮想通貨というテクノロジーによって私たちと国家、社会との関係がどう変わっていくかという部分だと思うようになりました。

 

通貨とどう付き合うかということは、国家とどう付き合うかということとほぼイコールの関係になります。というのも今私たちが使用しているお金というものは基本的に私たちが属している国家が発行し、コントロールしているものになり、ドルなどの一部例外を除き基本的にはその通貨を使用できる範囲も決まっています。通貨の価値は国に対する信用と紐付いているためです。そして、基本的に自分たちは使用する通貨を選べません(多くの場合、他国の通貨を持てたとしても決済手段としてそれを受け取ってくれる店はありません)。

 

それが、仮想通貨であれば数多くあるもののうち自分の好きなものを持つことができます。国が発行した通貨が気に入らなければ他の選択肢を取ることができるということです。筆者はそれを「自由」であると考え、より望ましい世界の姿と考えたといいます。

 

そして、ライブドア株の分割を繰り返すことで、どんどん株の単位は小さくなる。そうやって市場に出回るようになると、100万円ぐらい持ってないと買えなかった株が、10円、もしかしたら1円単位にまで価値が下がる時がくる。

これって、もう通貨のようだ。流動性を極限まで高くしていくと、株を通貨のように使えるのではないか。

仮にライブドアの従業員数が、何十万人になり、ワールドワイドなコングロマリットに育っていけば、その中に小売業があり、農業があるような仕組みができる。その中では、肉も野菜も、ライブドア株で買える。完全なエコシステムが完成するかもしれない。

言ってみれば、これはひとつのバーチャル国家だ。

サイズが大きくなりすぎた日本という国の中で、その役割を企業が肩代わりする時代がくるのではないか。

著者は いまから15年ほど前からこのようなことを考えていたといいます。今でこそ一国のGDPを上回るレベルの規模をもった企業が出現してきて、国よりも企業の方が信用度が高いという考えが少しずつ受け入れられてきたのかこのような考えを聞くことも少しずつ増えてきましたが、まだ一企業が国を差し置いて通貨のようなものを発行するとは夢にも思われない時代には著者のアイデアはあまりに先進的だったといえるでしょう。

 

リップルを活用することで国際送金にかかるコストを大幅に下げられるとか、キャッシュレスにすることで現金を扱うことに付随するコスト(発行や管理にかかる)を減らしたり、お金の流れを追跡できたりするという、あくまでも既存の枠組みのなかで仮想通貨を活用することのメリットに注目しがちですが、その本当の凄さというものは仮想通貨の数だけエコシステムが生まれ、どの経済圏を利用するかの選択肢がどんどん増えていくということにあると個人的には思います。

 

ただ少しだけネガティブな見方をすると、仮想通貨のように世界中で流通するスピードの早いもので作られた経済圏は、少しでも信用の高いものには世界中からどんどん参加者が増え(マネーが流れてきて)繁栄していき、逆に信用の低い経済圏はどんどん衰退に向かっていくと考えられます。もし新しい環境に上手く適応できず一つの経済圏で生きていくことしかできなければ、自分たちの経済圏が衰退していく時にはその運命を共にするしかありません。その結果、「勝ち組経済圏」と「負け組経済圏」の格差が出てくるのではという懸念があります。ただこれは仮想通貨というテクノロジーの問題ではなく経済システムの問題なので、こちらのシステムも新しくアップデートする必要があるだろうとも思います。

 

今後の経済がどう変わるか、その可能性について興味がある人はこの本を読むことで考えるヒントを多く得られると思います。

 

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