日本企業のビジネスICT導入が全く進まない理由は、もしかしたらより根深い問題かもしれない - 平成30年版情報通信白書
数日前に永江一石さん(@Isseki3) がTwitterで紹介していた「平成30年版情報通信白書」を読んでいます。
なんと無料だ。ネットがなんたら、ITがなんたら言うヤツは絶対必読だ!!!すごい情報量
— Isseki Nagae/永江一石 (@Isseki3) July 8, 2018
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この白書からわかることについて永江さんが連日ポストしているブログ記事の内容が素晴らしく、盛大にバズっているようです。
これらの記事ははっきり言って絶対に読んでおいた方がいいと思います。それくらい秀逸な記事。特にIT業界に勤めている人、これから社会人になろうとしている人にとっては現状のリアリティを知っておく上で必読といっていいと思います。そりゃバズるよねと納得するクオリティです。
どれもファクトベースで論理展開がされており、とても説得力があり勉強になります。みんな読んでみましょうで終わっても全然いいかなと思うレベルなのですが、それだとあまりにもこの記事の付加価値ゼロ感が強いので、無理やりにでも私なりの見方を付け加えてみたいと思います。
そもそも日本は全体的にITリテラシー高くないのでは?
「深掘り!! 日本企業のビジネスICT導入が全く進まないのはなぜか」という記事では、日本企業は他の先進国と比較してICTツールの導入が遅れており、それが生産性の低さの主因になっているという問題の主な原因として、経営者の年齢が高いというということをデータを元に指摘しています。
日本における社長の年齢分布は60代以上の構成比が全体の60%近くを占めていること、そして60代を境にITリテラシーが急激に低下することをデータで示しつつ、こういう人がトップにいることでビジネスICTツールの導入が進まないのではと指摘しています。
私もこれについては全く同意見です。効率改善のためのツールの導入について、決定権がある上司がなかなかその価値を理解してくれず説得に困っている、という人たちをよく見てきているので腹落ち感もあります。
ただ、自分なりにこの情報白書を読んでみた結果思ったことは、そもそも日本では他の先進国に比べて全体的にITリテラシーが低いのでは?ということでした。
つまり、いま60~70代の社長たちが一斉に引退をして、若い世代に後進を譲ったとしてもそこまで大きく状況は変わらないのではないかなと思うのです。
日本では他国に比べてSNSが全然活用されていない(積極的に発信する人が少ない)ということが「平成30年版情報通信白書による、日本人はソーシャル全然利用してないの図とその理由」という記事で取り上げられていましたが、情報白書を読み進めていくと他にも気になるところが多々出てきます。
例えば、日本ではシェアリングサービスの認知度に関する調査で半数以上の人が「当てはまるものはない」と答えています。
年代別に見てみると、やはり若い世代の方が上の世代よりも知っていると答える割合が大きくなる傾向にありますが、とはいえどの世代でも「知らない」と答えている人が半数を超えることが多いというのが今の実情のようです。個人の感想ですが、民泊サービスだけ妙に認知度が高いのは、Airbnbについてテレビのニュースで取り上げられることが多かったからかなと思っており、仮にそれが正だとするとそこまで深く理解している人も多くなさそうです。
さらに、知っていると回答した人に対して実際に利用してみたことがあるかという質問に対してイエスと答えた人の割合は他国と比べて圧倒的に低いです。
知ってはいるけれども使ったことはないという人が8割以上。SNSと同様、積極的に使用した人は少ないという結果になっています。
また、APIの認知・公開状況についても日本が他国に遅れを取っている状況が明らかになります。日本ではそもそもAPIについて知らないと答えている企業が半数を占めます。すでにAPI公開に取り組んでいる、もしくは計画、検討段階にある日本企業は全体の15%程度なのに対し、英国やドイツでは60%以上と、4倍ほどの開きがあります。
さらに、APIについて認知していると回答した日本の企業でも、公開によるインパクトや課題についての理解は限られているようです。
例えば銀行がAPIを開放することで家計簿アプリで残高を確認できるようになるなど、APIを活用することで生活の利便性が格段に向上するようなサービスが生まれる可能性があります。今後革新的なサービスが生まれると期待できそうな分野であるがゆえに、もっと理解が広がって欲しいと思います。
最後にクラウドサービスについての理解。クラウドという言葉は大分人口に膾炙してきた感があり、昔と比べると認知度は高まっていると思いますが、それでもなお、それを活用しようとなった場合にどんなことが課題になるかということが明確に把握できていない会社が日本には多いというのが現実のようです。
日本における過去5年分のクラウドサービスの利用状況の変化です。2017年の時点で56.9%の企業がなんらかの形で利用しているとのこと。
クラウドサービス導入による企業の生産性向上への効果は明白に出ています。その差は年々大きくなっているようです。
実際に導入した企業の80%以上が効果があったと考えています。
それでもクラウドを使用しない理由として、「必要がない」「メリットがわからない、判断できない」というものが多くの割合を占めています。試せるところから小さく始めるというかたちで進めてもいいのでは思うのですが...
上記で見てきたシェアリングサービスは明確にイノベーションのひとつとして考えられていますし、APIやクラウドはそれを活用することでさらなるイノベーションを生み出せる可能性のある技術です。このような技術に対する認知や理解が(比較的)低いという現実があるので、これを受け止め改善のためのアクションを取る必要があると思います。例えば早い段階からICTに関するリテラシーを高める教育に力をいれるというのも一つのソリューションだと考えられます。
というわけで、実は永江さんが指摘していたこちらの要因の方が日本企業にビジネスICT導入が進まない理由として大きいのではないかなあと思うのです。
しかも、このようにITリテラシーにおいて他国の後塵を拝している状況があるにも関わらず、新しく何かを学ぼうという姿勢においても他国に差をつけられています。
こうなると差は開く一方なので、やはり公教育というか、若い頃のICT教育というのは重要なんじゃないかなあと思ってしまいますね。
ここまでをざっくりまとめると、下記のような感じでしょうか。
- SNSやシェアリングサービスなどを積極的に使ってみようとしない(たとえ知っていたとしても)
- APIやクラウドサービスなど、企業の生産性にプラスの影響をもたらすテクノロジーへの反応も鈍い
- そして、その状態に危機感がなく、新しいことを学ぼうとしない
...なんか残念な姿が浮き彫りになってきてしまった感がありますが、とはいえこのように問題が可視化されたという意味でもこの情報白書がもたらす価値は大きいと思います。スキルがある人や学ぼうという意識を持っている人にとってはチャンスが大きい状況とも言えます。
たとえば産業別の生産性を比較できるこの図を見ると、不動産、医療・福祉、建設、対個人サービスの分野では生産性が低下してきていることがわかります。
ICTをうまく活用することで生産性向上の効果があることはこの白書を読めばわかることなので、このような生産性が高くない分野にICTという武器をもって参入すれば、業界にイノベーションをもたらし競合たちを出し抜くチャンスはあるかもしれません。どんどん生産性が改善していっている情報通信産業で戦うよりもチャンスは大きいのではないでしょうか。
以上、私なりに感じたことをまとめてみました。他にも発見があるかもしれないので引き続きこの情報白書を読み進めていきたいと思います。