THE戯言

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『MOTHER』シリーズはなぜこんなにこころに残るのか? ほぼ日鼎談:糸井重里とホルモン亮君とケニー・オメガ

ブログの更新を最近サボっていたらあっという間に年末になってしまいました...。

読んだ本も溜まってきていて、どこかでまとめて紹介したいと思いつつ、今日はこちらについて簡単に書くことにしました。

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日本を代表するコピーライターのひとり、糸井重里の会社「ほぼ日」のサイトをふらっと覗いてみたら見つけた素敵な鼎談。

糸井重里が昔つくった『MOTHER』というゲームについて、大ファンだったというマキシマムザホルモンの亮君と新日本プロレスIWGP現チャンピンオンのケニー・オメガの2人をゲストに糸井重里と語り合うという企画です。

私がプレイしたのは『MOTHER2』なのですが、ご多聞にもれずゲームの世界観にどっぷりはまり、夢中になってプレイしました。

いまでも大好きなゲームの一つなのですが、それについてまさかケニー・オメガが語るとは!プロレス大好きなわたし(来年1月4日、通称1.4の東京ドーム大会ももちろんみにいきます)としては絶対に見逃せません。

 

『MOTHER』シリーズが好きなひとは多く、亮君もケニーも同様にその独特の世界観に惹かれたということを話しています。このゲームは何度もプレイしたくなるような魅力があったり、自分の人生に強い影響力があたえるようなものであるということですが、何がこのゲームをそんなに特別にしているのでしょうか。

この鼎談を通じてそのうちの3つが明らかになったように思います。自分なりに感じたことを書いてみます。

 

1. 糸井重里流『ちょっとした「気持ち悪さ」』がスパイスに

この鼎談の中で、何が『MOTHER』をそんなに魅力的にしているのかと問われた時、糸井重里が真っ先にあげたのがこちらです。

糸井:他のゲームが演出する気持ち悪さは、
「こういうの怖いでしょ?」って、
わかるようにやるんです。
でも、ぼくが『MOTHER』で
表現する気持ち悪さは、
わからないように入っています。

例えば、フリーマーケットみたいなところで、
番人のいないストアがあって、
そこでは好きに泥棒ができます。
見つかっても強制的に
捕まったりはしないんだけど、
あとでみんなに
「お前が盗んだことを知ってるよ」
みたいに言われるところがある。
『MOTHER』には、
そういう気持ち悪さがあります。

こころが咎めるとか、悪い気はしないとか、
わかりにくいよろこびやら、
わかりにくい後ろめたさやら、
そういうものが「気持ち悪さ」になって、
あのゲームに入り込んでいます。

だから、なんどやっても
やり切った気がしないんだと思う。
やるたびに自分の心がうつっちゃうから。

このパートを読んだ時に私が思い出したのは、 『クロノトリガー』という別のゲームのことでした。お祭りをやっている広場にあるお弁当を食べると体力が回復するのですが、のちにそのお弁当はおばあさんがおじいさんのためにわざわざ作ってくれたものだったということがわかるというイベントがあるのです。

物語の進行には全く影響のないイベントなのですが、なんとなく悪い気持ちになり、周回プレイをする時にはそのお弁当に触れないようにしようと思ったことをいまでも覚えています。

明らかにそのおじいさんに感情移入をしてしまっており、お弁当を食べてしまったことに対して軽い後悔の念を持っています。この時点で完全にゲームの世界にはまり込んでいるのです。こういう「取り返しのつかないことをしてしまった」という良心の呵責を引き起こしてその世界観に感情移入させるということを意識的にやっていたという点で、糸井重里の非凡さが改めてわかります。

どれだけ人間のことをしっかり理解していればこんなことができるんだろうと、ちょっと怖くなるくらいです。

その他にも妙に残酷な描写があったり、人に話しかけても全く意味不明の文章が帰ってくる街があったり、得体の知れない恐怖をあたえるような要素がこのゲームには散りばめられています。基本ポップな絵柄なだけに、ギャップ効果で一層恐怖を感じるのですが、これもこのゲームを強く記憶に残るものにしているに違いないでしょう。

ひとは、感情を揺すぶられたできことは覚えているものです。

 

2. 「おもしろくない部分」もしっかりつくる

クリエイターの人には当然のことなのかもしれませんが、個人的にはここはすごい納得感がありました。

つまり、「おもしろくないところ」が
ちゃんとできてないと、
おもしろいところには目がいかない。

話の盛り上がるところで最高に盛り上がってもらうために、そうでないところは変な刺激を与えないように作らないといけないということかなと私は理解しました。

メリハリをつけるというか、いざという時にちゃんと集中してもらえるように、それ以外のところではリラックスしてもらえるように気をつけてデザインしないといけないということでしょう。

この振り幅が大きいと、盛り上がりのところが記憶に残りやすいのだと思います。もうずっとクライマックスです!のような部分がずっと続いても、集中力が追いつかない。他の場面も同じくらいのテンションで続いてしまうと埋もれてしまって記憶に残りづらくなりますよ、ということなのかなと。

だからこそ、盛り上がらないところはちゃんと気を抜いてもらえるようにデザインすることが大事ということだと思います。

これって、一番わかって欲しいところがしっかり相手に伝わるようにコミュニケーションしましょうということと一緒ですよね。色々言われたけど、結局なんだっけ?とならないように工夫しましょうという話ですよね。

この辺りってゲストの2人はあまり深くつっこんでなかったんですが、おそらく2人とも肌感覚で深く理解していたからなんだろうなあと後から思いました。ライブにせよプロレスの大会にせよ、メインの曲や試合に向けて流れを作るということをずっとやってきていますから。

 

3. 結局、感情移入こそがすべて

1と2で書いたことと被るところが大きいのですが、『MOTHER』がここまでひとのこころに残る名作となっているのは、物語に感情移入させる力がすごい強いからだと自分の中では結論が出ています。

鼎談の初めの方で、ケニー・オメガは自分の人生における『MOTHER』の存在についてこう語っています。

『MOTHER』というゲームには、
私たちのまわりの世界で起きていること、
現実の世界のできごとが詰まっています。
じぶんの人生に通じることは、
そこから学ぶことができるし、
じぶんの人生に適用することもできます。

『MOTHER』での体験は、
じぶんのまわりで起きていることや、
じぶんの少年時代を理解するための
手助けになっていたようにも思います。

とくに『MOTHER2』は、
あらゆるものごとに、
いいこと、かわいいこと、
ゆかいな側面があるということを
教えてくれました。

例えば、最初のほうで、
いじめっこのフランクと戦いますが、
彼はゲームセンターの後ろに
ロボットをかくしてるような悪いやつです。
でも、最終的に彼は私を尊重してくれるし、
手助けをしてくれるようになります。

当時、私が学校に行けば、
現実の世界にもいじめっこはいました。
人生はゲームのようにシンプルではないので、
簡単にいじめっこと仲良くなったり、
やっつけたりできるわけではありません。

でも『MOTHER2』は、
すべてのものには「いい部分がある」ことを
教えてくれました。
最終的に良くはならなくても、
すくなくとも悪いことがちょっとは良くなる、
そういうことを教わったような気がします。

 『MOTHER』から教わったことは大きい、自分の人生に適用できる学びが多かったと熱く語っており、私もそうそう!と思っていたのですが、このゲームが好きな人で同じように感じる人は少なくないんじゃないかと思います。

完全に『MOTHER』の世界観に没入していた様子がわかりますが、ではなぜそんなに感情移入させる力が強いのか。

それは、このゲームにはプレイヤーをゲームの中の世界に取り込んでいく仕掛けが数多く含まれており、それが非常にうまく機能しているからだと感じています。

先に述べた、ちょっとした気持ち悪さのエッセンスもそうですが、他に鼎談で語られていたところで例をあげると、キャラクターの設定が本当にしっかりしている。

ストーリーに関わってくる部分だけではなくて、あるこのキャラクターだったらこういうものが家にありそう、というアイテムが実際にそのキャラの家にはあります。つまりは各キャラクターの背景がしっかり作られており、そういった細かいところまでしっかり作られていることでそのキャラに厚みが出てくる。

その結果、

「もしかしたらこいつ、
イヤなところだけじゃなくて、
いいところもあるのかも‥‥」

と思わせるくらい余地がでてくる。ここまでくるとキャラに対して感情移入するようになってきます。感情移入ができるようになるレベルになれば、もう心の中には強く残るようになりますよね。

例えば、世界史の教科書だとなかなか覚えられないのに、歴史物のマンガ、例えば『キングダム』とか『チェーザレ』とか『イノサン』を読むと春秋戦国時代やイタリア・ルネサンス期、フランス革命あたりの流れがバッチリ頭の中に入ってきますよね。三国志なんてめちゃめちゃ多くの人が登場してくるのに、誰がいつ頃どんなことをしたかということを超詳細に覚えているひとがいます(笑)

マンガではキャラクターに対しての情報量が多く、読者が心を動かされて感情移入する部分が多いからこそ、教科書と比べて圧倒的に記憶に残ると理解しているのですが、『MOTHER』でもそれが遺憾無く発揮されていると思います。

主人公の喘息設定は、そういう弱いところを入れることでみんなに応援してもらいたかったから、と鼎談中で糸井重里が語っていますが、こういう細かいキャラ設定にも気を使っていることがわかります。

別の例としては、『MOTHER2』をプレイするとき、はじめに『あなたにとってのヒーローは?』という質問をされます。これに対する答えが、実際にゲームの中で反映されるのです。プレイヤー自身とゲームの世界のつながりを深める非常にいい仕掛けだと思います。こういうちょっとしたことでもグッと自分ごとのように感じるようになります。

ネタバレになってしまうかもなので詳細には書きませんが、他にもプレイヤーをゲームの中に巻き込むような演出が要所要所ででてきます。

ここでさらに面白いと感じるのは、そういう演出が出てくるとちょっと嬉しく感じるんですよね。ゲームの側から自分もその世界の仲間ですと言われているような気がして。

特にゲームの最後のアレには本当にグッときました。こんなゲーム初めて!と思ったのを覚えています。

 

こういう仕掛けが働いて、プレイヤーは『MOTHER』を進めていくうちに自分でも気づかないくらい自然にエンゲージしていくようになります。そして自分がゲームの世界の登場人物のひとりであるかのように感じ、このゲームに強い愛着を持つようになるのです。

これを意識的につくった糸井重里という人は、本当にすごいひとだと改めて感じました。本当にこわい、才能がありすぎて。

 

この他にも、「仕事」や「チームプレー」といったトピックでも非常に勉強になることが多くありました。2018年の最後にこんなに素晴らしいコンテンツに出会えて本当によかったなあと思っています。

『MOTHER』好きの人にもそうでない人にもぜひ読んでもらいたい内容です!

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ほぼ日についての本も最近読んだのですが、こちらも面白い。ほぼ日は今年上場しましたが、それに違和感を感じるひとは少なくなかったようです。本著ではそういった疑問に対してもしっかり答えを出してくれています。

すいません、ほぼ日の経営。

すいません、ほぼ日の経営。

 

ほぼ日手帳も欲しくなっちゃったなあ。これまで手帳使ってこなかったけど、使い始めてみようかな。