THE戯言

Quitters never win. Winners never quit.

職場の人間関係における処方箋!「天才を殺す凡人」

天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ

天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ

 

かつて「注意欠如・多動性障害(ADHD)」が正式に発達障害のなかの一つと位置付けられたとき、それによって精神的に楽になったという人は少なくなかったといいます。今までは何かおかしいんじゃないかと思っていながらもなかなかその正体がつかめず、どのように対処したらよいかもわからないといった不安な状況が、ADHDという定義によって明確になったため、ある程度どう対応していけばよいかわかったからだと。

同様に、仕事をしていく中でなかなか成果をだせず悩んでいる人、どうにかしたいと思いながらもどうしたらいいかわからずもがいている人にとって、本書は大きな助けになるかもしれません。

本書の軸になっているのは「才能」です。仕事に必要な才能を天才、秀才、凡人の3つのタイプに分類し、それぞれの特徴、武器、評価の軸について定義します。この3つの才能を持っている人たちによって組織は運営されていきます。

天才は「創造性」、秀才は「再現性」、凡人は「共感性」を物事の評価の軸とし、ビジネスの中の「作って」「拡大して」「お金にする」という役割をそれぞれ担います。ここで重要なのは天才の役割が他の2つよりも優れているという訳ではなく、それぞれに違った役割があるということです。自分はこの中ではどの才能をもっているか(どれに一番近いか)を認識し、どういう役割を果たすともっとも才能が生かせるのかを考えるとよいでしょう。自分自身の特性を把握し、どこで活躍できるかを見極める。これが本書から学べることその1です。

個人について把握したところで、会社をはじめとする組織では他者との連携が必須になります。そこで次は、組織の中ではこれらの才能はどのように機能しているかの分析にはいります。

実は、天才、秀才、凡人の3つの才能の間では、それぞれの評価軸が異なることによってコミュニケーションが断絶してしまいがちという問題があります。これは組織からイノベーションが生まれにくい原因にもなっていますが、とはいえこれでは組織はどれもうまく機能しないことになります。

現実がそうでないのは、話の通じない天才、秀才、凡人の間のコミュニケーションを受け持てるパーソナリティを持つ人が組織に存在するためです。そういうパーソナリティを本書では「アンバサダー」と定義しており、世界が崩壊していないのはこの人たちのおかげとさえ言い切っています。当然二つの領域にまたがる才能を持つこれらの人々が果たす役割は組織にとって極めて大きいと言えるでしょう。いわゆる優秀な人材はここの領域に属する人だと思います(天才と秀才の間を繋ぐのが「エリートスーパーマン」、秀才と凡人を繋ぐのが「最強の実行者」、天才と凡人の間を繋ぐ「病める天才」の3タイプがあります。)。

組織の中で異なる才能を持った人たちを動かして仕事をする際にはこれらのアンバサダーの力を借りるべし、というのが本書のアドバイスです。その際アンバサダーを巻き込むための方法も紹介されており、なんて親切な本なんだと感心しました(笑)。

また、個人的にここで思ったのは、秀才と凡人の間の「最強の実行者」を目指すのが多くの人にとって自分の価値を高めることにつながるのではないかということです。

秀才であれば共感性を、凡人であれば論理性を高めることで「最強の実行者」に近づくことができますが、創造性に比べてこの2つは訓練での習得がしやすいのかなと思います。特に論理性についてはクリティカルシンキングなどの方法論が成熟しているので、むしろ凡人側にチャンスがあるのかなとさえ感じます。

このような個人の才能、才能同士の関係を深掘った上で、最後にはその才能をフルに活かすためのヒントとなる「武器」について紹介しています。ここでいう武器とは「自分の才能をもっとも表現しやすい『方法』」と定義しており、例えば「創造性」とはアートやエンジニアリング、「再現性」とはルールや数字、「共感性」とはSNSや写真、マーケティングなどが相性が良い武器として挙げられています。

(1) 自らの才能を理解し、(2) 組織における才能同士の作用を理解した上で、(3) もっとも自分が才能を活かせるような方法だったり相手をうごせるような表現ができれば、少なくとも何もわからないままただもがくような状況と比べて仕事をするうえでのストレスははるかに軽くなるでしょう。

職場における個人のパフォーマンスの問題について、ここまで深く洞察し言語化され体系化されたのは本書が初めてなのではないでしょうか。少なくとも今までは「なんとなく合わない」で済ましていた違和感に対して明確に姿を与えたという点で本書には他にはない価値があると思います。

最後に、本書は「凡人が、天才を殺すことがある理由。ーどう社会から「天才」を守るか?」というブログ記事が下敷きとなっています。

yuiga-k.hatenablog.com

内容的にはこの記事をベースに、実際のケースに当てはめるとどうなるかをわかりやすく表現するために本書では小説のようなストーリー形式を採用しています。これにより本書の主張する内容がより納得感のある形で理解できるようになっており、また登場人物への感情移入により記憶に残る形になっています。

物語としても面白いので、ぜひ手にとって読んでみてください。読み終わった後には謎がとけたかのような、何かすっきりした気持ちになっていることでしょう。