THE戯言

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「実験思考 世の中、すべては実験」このユニークな販売の仕組み、その本当の狙いは?

最後に記事を書いてからだいぶ時間が空いてしまいました。

元号も変わったし、そろそろ書くか」という気にすらならず、下手したらこのままフェードアウトかとも思っていたのですが、この本を読んで久々に手を動かそうという気になりました。

実験思考 世の中、すべては実験 (NewsPicks Book)

実験思考 世の中、すべては実験 (NewsPicks Book)

 

2017年に「持ち物が一瞬にしてキャッシュにかわるアプリ」として登場し非常に大きな話題になった「CASH」。一晩で3.6億円分のアイテムがキャッシュに変わり、一旦サービスを停止。その後すぐにDMMに買収されたことでも話題になりましたが、そのサービスを作ったのが本書の作者である光本勇介さんです。

本人曰くよく狂ってるといわれるほど型破りなアイデアを次々と生み出している彼らしく、本書の販売方法についてもこれまでになかった仕組みになっています。

この本については、読者が自分で支払う金額を決められるのです。厳密に言えば紙の書籍であれば印刷代分の390円、kindleであればその印刷代もかからないので無料で読むことができます。

本を読んで満足した人は特設サイトから自分が払ってもいいと思う金額を支払う、という仕組みになっています。

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価格自由|書籍「実験思考」特設サイト

 

2019年5月14日現在において、特設サイト経由でお金を支払った人は1,009人。支払金額は¥46,486,200です。ひとりあたり¥46,000以上を支払っている計算になります。このタイプのビジネス書の値段は¥1,500だそうですので、この本に対して読者ははるかに多額の支払をしていることになっています。

このユニークな仕組みが注目され、非常に話題になっている一冊です。いわく、「本の価格を読者の自由に委ねてみたら、定価で売った場合より儲かるのか?」という実験をしているのだそうです。

 

ただ、本当にそれだけが目的なのでしょうか。

 

これは本の販売というよりは、本というメディアを使ったクラウドファンディングだと考えるのが妥当だというのが私の素直な印象です。

CAMPFIREMAKUAKEといったクラウドファンディングのプラットフォームサービスにはイベントの開催や新プロダクトの開発など数多くのプロジェクトが紹介されており、ユーザーは気に入ったプロジェクトにお金を払うことで支援することができます。

一般的にはプロジェクトの支援額については¥1000、¥5000、¥10,000などいくつかの金額オプションが設定されており、ユーザーは好きな金額を選ぶことができます。

そして、その支援金額に応じて受け取れるリターンが変わってくるという仕組みです。一般的に多額の支援者には大きなリターンが設定されています。

「実験思考」の特設サイトを見ると0円から100万円までの支払オプションがあり、1500円から上には様々な特典がついています。本に価値を感じる以上に特典に魅力を感じてお金を払っている人も多くいることでしょう。実際に本を購入せずとも支払いができることから、単純な代金支払のためのチャネルでないことは明らかだと思います。

 

通常クラウドファンディングのプロジェクトは、支援者を集めるためにプロジェクトの紹介ページで詳しい内容や目指すべき目標、プロジェクトを始めた理由などを説明します。ここでいかにユーザーの興味や共感を引き出すかが資金集めを成功させるためのカギとなるのですが、「実験思考」はこれに本一冊まるまる使用しているのだと私は感じました。

光本勇介という人がどういう人なのか、これまでにどういうことをしてきたのか、今どのようなことを考えていてこれから何をしていきたいのかが約200ページにも渡って紹介されるわけです。一般的なクラウドファンディングのプロジェクト説明ページの量と比べれば、はるかに深く理解できますし、感じるところも多いことでしょう。

なぜわざわざ本でという疑問の答えとしては、多くの人に知ってもらい手にとってもらう機会を増やすためだと考えられます。以前に比べればクラウドファンディングが人口に膾炙してきたとはいえ、書店に並ぶ本と比べたら人の目に止まる機会は比べものにならないでしょう。

手にとってもらいやすくするためという観点で考えれば、400円(kindle版は無料)といった低価格の設定もそのためなのかもしれません。こんなに安いなら(タダなら)試しに読んでみようという方は少なくないでしょう。少しでも多くの人に読んでもらいたいというのであれば、本というメディア+低価格という組み合わせは効果的なのかもしれません。これも実験中なのかもしれませんが。

 

最後に、この売り方がクラウドファンディングのプロジェクトだったとしたら何が目的なのか。本当に「普通に書籍を販売するよりも価格の決定権を読者に委ねたら儲かるかを確かめる」だけでしょうか?

私は、この取り組みを通じて光本勇介のファン、共感者、同志を集めたコミュニティを作ろうという意図があるのではないかと感じてます。ゆくゆくはホリエモン西野亮廣でおなじみの月額制オンラインサロンを立ち上げるという計画があるとして、現段階でどのくらい入会してくれそうなひとがいるかのリサーチをしているのではないかと。

例えば今回1万円以上支払ってくれた人をファンと定義し、将来のサロンへの見込み会員がどれくらいいるかを確認したり、30万円以上支払ってくれた方については将来のビジネスパートナー候補とみなしてたり。本書を読む限り光本さんには面白いビジネスのアイデアを豊富にお持ちなので、それを一緒に実現するための同士を探すためにこの仕組みを利用しているのではなどと勝手に思っています。

ホリエモンのサロンからいろいろな事業やイベントが生まれているのと同様のことが近い将来「光本サロン」から生まれてくるかもしれませんね。CASHがDMMに買収されたときに、様々な事業を手広く扱うというDMMイズムが受け継がれているかもしれません。

 

それにしてもこんな売り方を実現できたのは幻冬舎があってこそでしょう。世の中にいる天才がそのポテンシャルを完全に発揮できるよう柔軟な対応ができるのは、本当にこの出版社をおいて他にないと思います。あらためてこの会社の力を感じました。

 

と、完全に本の内容とは関係のない妄想的な内容になってしまいましたが、本書を読めば光本勇介という人であればこれくらいのことを考えてもおかしくないということはわかるでしょう。これがまだまだ序の口で、今後は想像のはるか上をいく面白いことをどんどん生み出してくれるのではと期待してしまいます。

こんなに面白いことを考えられるこの人はいったいなんなのか。その答えは本書を読むことで明らかになるかもしれません。