THE戯言

Quitters never win. Winners never quit.

『考える障害者』を読んで障害者のことを考えた

考える障害者 (新潮新書)

考える障害者 (新潮新書)

 

著者は車イスのお笑い芸人と20年以上のキャリアを持ち、自身で訪問介護事業を運営しているホーキング青山氏。

障害者はあまりにも極端な2つの捉えられ方をしている。体には難があるけど心は綺麗な汚れなき聖人君子、しかし一方では(いまでは表に出ることはないけれど)厄介者扱い。そんな極端な捉え方ってなんかヘンなんじゃないか。このような著者の問題意識がこの本を書くきっかけになったといいます。

本書では、先天性多発性関節拘縮症のため手足に不自由があり車イス生活を送っている著者が実際に直面したおかしなコミュニケーションが多々紹介されています。

「街中で障害者を見かけたらどのように接すれば良いでしょうか?」

著者はこういう質問を健常者から受けることがよくあるといいます。私もそうでしたが、この質問を見て特に問題があるとは思わないのではないでしょうか。

しかし、著者は「こういう質問があるということ自体、その人と障害者の間にはものすごく距離があるということだし、しかもこの質問自体ははっきり言ってナンセンスだと思う」というのです。

その理由は本書で確認していただくとして、このように世間から受ける扱いに違和感を覚えることがままあると著者は感じており、それは障害者に対する理解が足りないというところに原因があると考えています。

本書は、世間の障害者に対する妙な扱いに対し「それって違うんじゃないの」という視点を投げかけるものとなり、障害者からのリアルな視点が見えるという点で非常に優れた一冊となっています。

 

ただ読み終えて思ったのは、この問題は非常に難しいということです。

本書の中に、『「どうすべきなのか」は明白、「そうしなさい」というのも明白、とはいえ現実的には難しい』ということが語られる部分があったのですが、まさに障害者に対する付き合い方、障害者を包摂した社会の作り方の問題の本質が凝縮されていると感じました。

 

障害者も同じ人間であり平等である。健常者と同様に扱うべきだ。障害者に対する理解を深めよう。

こういう考えに反対する人はいまや極めて少数派になると思います。ただし具体的にどうするかとなったときに一息に問題を全て解決できるような案はいままでもでていませんし、これからもでないでしょう。

ここには、「理解」と「実践」において超えるべき大きな壁があると感じます。

そもそも、ここでいう障害者とは誰のことを指すのでしょうか。一口に障害者と言っても様々ですし、必要なサポートも千差万別です。「障害者」と一口にくくるのは私たち全員を「日本人」とくくるくらいざっくりとした区分なのではないでしょうか。

個人的には、下記のように定義を考えてみました。

  1. マイノリティである
  2. 日常生活をおくるのに周囲の人からのある程度のサポートが恒久的に必要になる

素人定義ですので当然抜け漏れがあるとは思いますが、やはり「障害者」を定義しようとするとこのような大雑把な区分になってしまいました。実際には極めて多様な姿の「障害者」をカバーするのにはこのような定義では不十分でしょう。

このように定義すら難しいほど多様性があるため、「どこまでやれば障害者にとって住みやすい社会といえるのか」という基準の設定も極めて難しくなります。個々人に必要なサポートの種類や程度はそれぞれですし、それをどこまで社会の中に組み込むかということは現実的にコストの制約もあり明確な答えはありません。

専門の介護施設だけを見ても、現状しっかりとした専門性を持ったスタッフやそこに投入できるお金が潤沢にある状況とはいえないでしょう。

 

同じ人間として平等に扱う、そういう社会を目指すというのは理想としては全く正しいと思います。ただそれは難しい。健常者だけの世界でもあらゆる人間が自己肯定感をもてる社会を作ることが難しいことを考えれば自明でしょう。

そこに、障害者の対するサポートという点が入ってくると、コストの問題も出てきてさらに問題は複雑化していきます。この問題は一朝一夕には解決が不可能なので、これからも議論して進めていく必要があるでしょう。

 

本書でも「ではどうすればいいか」という答えはでていません。あるのはひたすらに問いかけのみです。それは仕方ないですし、それでいいと思います。障害者にとって今の社会は昔に比べればずっと住みやすくなっているはずです。未来の社会をもっと住みよくするためにはどうすればいいか、それを考え続けることが重要だと思います。

 

この本を読んでこういう意識を持ったということ自体がひとつの前進であると個人的には思いました。おすすめです。

 

 

多様性と包摂(ダイバーシティインクルージョン)について書いたエントリも紹介しておきます。

sat-1.hateblo.jp