中国の海外旅行者の購買行動について
仲間内で月イチペースで開催している小さな読書会に参加しているのですが、次の会で取り上げる本がデービット・アトキンソンの「新・観光立国論」ということで今読み進めています。
この本で論じられていることの補足になりそうな情報を探していた時、今年の2~3月あたりにニールセンからリリースされた中国人旅行客の海外旅行と消費動向に関するトレンドについてのレポートを見つけました。Alipayとの共同調査の結果であるこのレポートがなかなか面白いのです。
2017年日本に旅行に来た外国人旅行客の数は2,800万人。そのうちの26%を中国人(台湾、香港除く)旅行者が占めます。
データ一覧 | 日本の観光統計データ | 日本政府観光局(JNTO)
今後さらに多くの旅行者に日本に来てもらえるようにするために、中国人旅行者は海外旅行に対してどのような志向を持っているのかを知るのにすごい参考になると思います。
2017 Survey: Outbound Chinese Tourism and Consumption Trends:中国の海外旅行者の決済行動に関する報告書
- 調査対象:過去1年以内の海外旅行経験者および1年以内に海外旅行予定者
- 調査人数:中国2,009人、アメリカ201人、イギリス111人、フランス100人、韓国100人、日本101人
- 対象年齢:20~50代
- 調査方法:オンライン調査
目次
サマリー
- 中国の旅行者は海外旅行において予算よりも体験内容を重視
- 中国の旅行者は他国の旅行者に比べて購買力が強い
- 中国の旅行者の65%が海外旅行中にモバイル決済を使用
- 中国の旅行者が海外旅行中に使用するメインの決済手段はモバイル
- 中国の旅行者の76%が将来モバイル決済がもっと使えるようになって欲しいと回答
- 食事の際にモバイル決済する割合が63%、観光地への訪問の際に使用する割合が58%
- 海外で中国のモバイル決済手段が使えるなら是非使いたいと考える中国人旅行客の割合は91%
パート1:中国人の海外旅行者のトレンド
まず中国人旅行客が訪れた海外の国の数(平均)です。2016-2017年にかけては2.1ヵ国。平均して1年に2カ国以上の国や地域に旅行していることになります。これが2017-2018年にかけては2.7ヵ国になると見込まれており、海外旅行に行く回数は増加傾向にあります。
次に人気の目的地ですが、やはり基本はアジア諸国が人気です。アメリカやヨーロッパは少しハイレベルな旅行先と認識されているようです。人気の国Top10のうち、日本は2位につけており、まだまだ人気の旅行先になっているようです。
続いて旅行先を決める際に目的とする要素です。中国の旅行者とその他で違いが出ており、中国の旅行者が自然やテーマパークを特に楽しみにする一方でその他の旅行客は歴史や文化を楽しめるところやショッピングエリアを好むようです。
中国人旅行者の旅行先として人気上位の国ごとに、それぞれ観光地が人気かをまとめたリストがこちらで、日本は「ディズニーランド」「富士山」「東京タワー」「北海度」が人気です。香港やアメリカでもディズニーランドは1番となっており、ディズニーの人気度が伺えます。USJもチョイスにあがるようになると全体として日本にくる旅行者の数がもっと増えるかもしれません。
旅行先を決める際に考慮する要素を見ても、中国とそれ以外の国で結構差があります。
中国人旅行客:
- 観光地の美しさ、ユニークさ
- 治安
- ビザ発行の手軽さ
- 旅行客への受け入れ度
- 予算
その他:
- 観光地の美しさ、ユニークさ
- 予算
- 治安
- 休暇の長さ
- スケジューリングの都合
その他の国に比べ中国人旅行者が予算的側面にあまり優先度を置いていないのは購買力が上がってきているからと単純に考えられるでしょう。ただ面白いのはこの後紹介するように、絶対的な価格についてはそこまで気にしないものの、ディスカウントやスペシャルオファーがつくかどうかは気になるようです。中国人旅行者向けのプレミアムガイドサービスなど付加価値の高いサービスは受けるかもしれません。
旅行形態の比較。どちらもフルパッケージツアーの割合は他と比べてやや低い傾向にあります。やはり自分で情報収集が簡単になっているので、自分で全部(またはほとんど)を企画する旅行の方が好まれてきているように思います。
最後は、海外旅行の際どのくらいスマホを使えるようにしておくかについて。中国人旅行客の97%が海外でスマホを使用できるようにデータパッケージを購入するなど準備をしているといいます。これはあまり驚きではないでしょう。国際ローミングサービスを購入するのが62%、割安通信プランを購入する層が50%、モバイルWifiを借りるのが38%です。
注目なのは、海外でどのようにネット接続するかのところで、56%が無料の公共Wifiを使用すると答えている点です。日本ではまだ公共Wifiサービスが整っておらず、使用しにくい状態が続いています。この指摘はよくなされるものですが、海外からの旅行者が少なからず不便に感じるところであるので、早めに改善できるとよいでしょう。
パート2:中国旅行客の購買データ
まずは中国の旅行客の海外旅行における購買行動の全体像です。全体的に海外旅行において使用する金額は増加しており、2017から2018年にかけては3%上昇しています。
もっともお金を使用する国はアメリカで、ついでヨーロッパ、オーストラリアと続きます。目的地が遠いほど多くのお金を現地で使用する傾向が見えますが、これは訪れるのに時間がかかる/大変なところでは一回の旅行における滞在日数が長くなりがちになるからと考えられます。
続いてもっともお金を使っている分野です。ここも中国人とそれ以外の旅行客で差があるところで、中国人旅行客の方がショッピングにお金を使う傾向があります。平均して762ドルをショッピングに費やす中国人旅行客に対し、その他の国の旅行客は486ドルにとどまるとのことで、中国人旅行者の購買力が伺えます。
また、ショッピングをする際どのような場所でするかは若干国によって違いがあります。日本では台湾とならびドラッグストアがランクインしているところが注目です。確かにマツモトキヨシで多くの中国人が買い物している姿はよく見かけますし、マツキヨ側もそれに対応するために中国語のできる店員さんを配備したりしていますね。
人気のアイテムTop5カテゴリです。1位はスキンケア用品やコスメ。2位にローカルの特産品、3位がお土産です。それにファッション系や食べ物が続きます。
ショッピングの際に考慮する要素です。中国人旅行客は絶対的な価格に対する感度はそこまで高くないのですが、割引やプラスαのオファーが受けられるかどうかを重要と考える傾向があるようで、ここはなかなか面白いところです。もちろん、どんな決済方法が使えるかという要素も重要になってくるのがその他の国の旅行客と大きく違うところです。
特に面白いところとしては、旅行先として人気の国それぞれにおける中国人旅行者からのイメージです。日本は自分たちの魅力をうまく発信できているのでしょうか?他の国の例を見て参考にできるかもしれません。
香港:多くのテーマパークのあるショッピング天国
- レクリエーション(83%)とショッピング(50%)が魅力
- 香港ディズニーランドとオーシャンパーク香港
- 買い物はコスメ、電気製品、宝石やハンドバック
台湾:自然、文化が魅力。食も最高
- Sun Moon Lake、 Alishan National Scenic Area、Chihsingtan Beachが人気スポット
- 台北 国立故宮博物院とTaipei 101が人気
- ローカルフードや屋台も魅力
- 台湾への旅行者の50%はホームステイを選択
日本:リラックス、食事、買い物ならここ以外考えられない
- 東京タワー、ディズニーランド
- 富士山、北海道
- 購買行動は様々
- レクリエーションへの支出額が多い(ディズニー効果?)
- 他のどの国/地域よりも買い物をする頻度が高い
- 薬
- 電化製品
タイ:海外旅行を楽しみたいならここでしょ!
- 低コストが魅力
- リラックスしたいならここ!
- 寺への訪問、食事、観光地でのパフォーマンス
- ローカルストリートフード
- スパやマッサージ (80%)
- 買い物はduty freeストアやコンビニ
- 買うものはローカルの特産品、スキンケア、食べ物
アメリカ:ハイレベルな旅行先
- USへ行く人はそもそも海外旅行に行く回数の多い人
- USでの使用する金額は他のどの地域よりもおおい(4462ドル)
- 自由の女神、タイムズスクエア、ディズニーランドが人気
- アウトレットモール、ラグジュアリーストア、家電量販店で使用する額も他の国よりも大きい
オーストラリア:最強のアドべンチャーランド
ヨーロッパ:様々な目的
パート3:モバイル決済について
このパートは主に海外旅行中の決済手段、特にモバイル決済についての調査内容の結果について紹介しています。この調査そのものがモバイル決済サービスを提供しているAlipayとの共同調査ということもあり、批判的に見たほうがよいかなと感じる内容もなくはないのですが、それを差し引いても一見に値する内容になっていると思います。
まずは海外旅行中の決済手段として中国人旅行者が使えるようにしてあるもの。現金、銀行カード決済(銀聯カードでしょうか、クレジットカードもこの中に含まれてそうです)、そしてモバイル決済。どれも半数以上のひとが使える状態にしているそうです。
では、実際に海外旅行中の決済手段として使った手法の割合をみてみましょう。
中国人旅行者もそうでない国の旅行者も、一番多いのはカード決済です。続いて現金、最後にモバイル決済とつづきます。
ただ、やはり他国の旅行者に比較して、中国人旅行者のほうがモバイル決済の割合が圧倒的に大きいのに注目です。現在のモバイル決済の利用率は旅行先の国における店舗側の決済受け入れ体制に制限されていると考えるのが自然でしょう。今後体制が整ってくれば自然とこの割合が増えてくると予想されます。
次に、世代別の決済方法の割合です。これも予想通りと言いますか、若い世代のほうがモバイル決済の利用率が高くなります。現金の利用割合は全世代でそこまで変わりがないので、カード決済がモバイル決済に置き換えられていることになります。
海外旅行中のモバイル決済の使用率は2年前と比較して向上しており、これは利用するユーザーと利用できるお店が増えたことによるものでしょう。今後(主に店舗側での)普及率が高まるにつれモバイル決済の割合はどんどんと増えていくでしょう。
ちなみに、中国人旅行者が海外でモバイル決済を選ぶ理由 は下記の通りです。
- 中国で使い慣れているため便利 64%
- 見慣れた決済ブランドを見て親近感が沸く 48%
- 為替不要で、レートに優遇がある 43%
- ディスカウント・クーポンがある 36%
- 広告宣伝を見たから 24%
- 店員や他の人からのおすすめ 21%
やはりモバイル決済を便利だと感じているため、海外のお店で利用できないことを不満に感じているようです。逆に海外でモバイル決済を使わない理由として多いものは「クレジットカード支払や現地通貨での支払に慣れている」「お店がモバイル決済をサポートしていない」といったものです。
面白いのは4位にランクインした「モバイル決済でのディスカウントがない」で、前に述べた中国人旅行客は買い物の際にはディスカウントなどがあるかどうかを考慮するという事が現れています。
今後どういうところでモバイル決済が使われてほしいかについて、やはり多くはショッピングでモバイル決済を使用したいと答えています。食事や宿泊でも半数近い人がモバイル決済のサポートを望んでおり、可能であればそれで支払いたいというニーズが強そうです。
余談ですが、Alipay Americaの代表であるSouheil Badranは、増加する中国人旅行客とその購買力をアピールし、北米の事業者に対して上記のような購買行動データを見せながらAlipayのモバイル決済システムを導入してもらえる事業者を増やしていくことに取り組んでいます。
今後Alipayで支払いできる店舗が増えることでさらに観光客にお金を落としてもらえるかも、という口説き文句でパートナーを増やしているのです。
中国旅行客が増えるから地元でAlipay支払受入の店が増える→支払が便利になりより多くのお金が店舗に落ちる→モバイル決済受入の店舗がさらに増える→.....といったループができるようになると、観光業を盛り上げるひとつの要因になるのはまちがいないでしょう。
まとめ(というか感想)
海外旅行をする中国人旅行客は年増加傾向にあり、購買力も強くなっています。日本の年間旅行客の26%を中国人が占めており、日本の観光収入をもたらすファクターとして今後も重要な層であることはまちがいありません。
最近は旅行中の体験の質にこだわるようになっているため、日本に旅行に来る中国人旅行者がどのようなことを求めて日本を訪れているかを分析し、より彼らに対して満足度の高いサービスを提供したり彼らの期待を満たせるような経験のできる場所の情報を発信していくことが重要と思われます。彼らの決済行動に寄り添った施策もそのひとつです。
もちろん中国人旅行客のみに注力するべきかどうかの議論があるでしょうが、日本の観光業を成長させるに当たって、無視できない重要な顧客層である事はまちがいありません。
リンク集
- フルのニールセンレポート
- サマリー版サイト Outbound Chinese Tourism and Consumption Trends
- 日本の観光統計データ データ一覧 | 日本の観光統計データ | 日本政府観光局(JNTO)
- 世界各国、地域への外国人訪問者数ランキング
- 世界各国、地域への外国人訪問者数ランキング|統計・データ|日本政府観光局(JNTO)
- 訪日外国人の消費動向 (pdf)