THE戯言

Quitters never win. Winners never quit.

<短文><雑感>今更ながらキングダムマンチョコ

誘惑に抗えず買ってしまいました。

 

ビックリマンチョココラボシリーズ最新作『キングダムマンチョコ <戦国動乱編>』。

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新しいのが出るたびに買ってしまうんですよね、このシリーズ。

 

3年前に『スター・ウォーズ ビックリマン』が出た時には狂ったようにシールを集めました。このシリーズがなければ元ネタの映画を見ることはなかったでしょう。シールになった場面を確認したくて、1週間くらいで全6作品を一気に観た記憶があります。

rocketnews24.com

 

最近ではAKBやワンピースなど矢継ぎ早にいろいろな人気コンテンツとコラボしており、もはや一種のプラットフォームと化しています。ご当地キティみたいなものです。ジョジョとコラボされた時が恐ろしい。箱買い待ったなし。

 

さてさて、それでは今回の『キングダムマンチョコ <戦国動乱編>』を開封してみましょう。何が出るのか、このお菓子を買って一番盛り上がる瞬間です。

 

 

 

ドゥルルルルルル....(ドラムロール)

 

 

 

バン!!!

 

 

輪虎!微妙!

解散!!

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comicin.jp

 

 

キングダム 22 (ヤングジャンプコミックス)

キングダム 22 (ヤングジャンプコミックス)

 

シリコンバレーサバイバルガイド - サルたちの狂宴

サルたちの狂宴 上 ーーシリコンバレー修業篇

 

 

原題は『CHAOS MONKEYS Obscene Fortune and Random Failure in Silicon Valley』(カオスモンキー)。

ゴールドマン・サックスの高級に別れを告げ、シリコンバレーウェブ広告企業アドケミーに転じたもと久遠つのアントニオ。そこは、既存のあらゆる産業をなぎ倒すIT業界のサルたち(=カオスモンキー)が跋扈するジャングルだった。

本書の表紙カバーそで部分にあるこの本の概要を見て面白そうだと思ったのであれば、本書を一読することを強くオススメします。

 

本書は上下巻の2部構成になっており、上巻はゴールドマン・サックスクオンツとして働いていた著者がウェブ広告を手がけるスタートアップ、アドケミーに転職し、やがてYコンビネーターと呼ばれるスタートアップの登竜門を通じて自分たちで会社を起こし、最終的には会社を売却してフェイスブックに入社するところまでのストーリーが語られています。

 

この本の魅力は、本書の中のこの一文に凝縮されていると感じます。

天の救いを得る最上の方法は、地獄への道のりを知った上でそれを避けることだ、と聖アウグスティンは考えた。これを読んでいるみなさんには、僕が示すさまざまな地獄への道をよく吟味し、回避してもらえればと思う。

この言葉の通り、本書にはシリコンバレーで活躍するうえで直面するあらゆるできごとについて非常に具体的に紹介されています。Yコンビネーターでのプレゼン、VCやエンジェル投資家との面接、退職した会社に訴えられたこと、資金調達時のオプション、会社を売却する際の利益を最大化する方法から、シリコンバレーの美味しいカフェについてまで。

 

また、成功しているビジネスパーソンである著者の経験を通じて得られた洞察も参考になるものが多いと思います。失敗するスタートアップに共通する点、沈みゆく会社に見られる兆候、大成功した会社の創業者の素質などなど。多くの具体的事例をもって、シリコンバレーで働くということはどういうことかが浮き彫りになってきます。将来自分もシリコンバレーで働きたいと思っている人は事前の(心の)準備として読んでおくといいでしょう。本で読むのと実際では大きく違うとは思いますが、一例として著者の経験と追体験しておくことで学べることは少なくないのではと思います。

 

具体的な事例として、もし二社から転職のオファーがきた時にとるべき作戦として著者が紹介しているものを見てみましょう。

 

その二社と並行して交渉を進める。その時それぞれ交渉内容が影響しないように注意する。本命でない1社の条件を多額の前金がもらえるようなものに設定し、入社直後に利益が得られるような形にする。そして実際に入社後1日で辞め、大金をもらってから本命の会社に移る。うまく騙された会社は、自分たちがいいように扱われた気まずさから訴えることまではしない。

 

フェアプレー精神というものはないのかと思わざるをえないようなえげつない行為に私には見えるのですが、実際に著者がこの作戦を取らなかった(取れなかった)ことが『シリコンバレーにおけるちょっとした不可解な事件として、取材したITメディアはとまどった』ということなので、シリコンバレーではごく当たり前のことなのでしょう。

道義心というものが薄汚れたITの世界にも存在するとすれば、かように高くつく趣味にほかならない。

最終的にこう言い切ってしまえるくらいには、著者自身も海千山千の猛者どもが生き馬の目を抜くようなシリコンバレーの環境への適性が備わっていると感じます。

 

自分が同じ立場であれば、こんなことは恥ずかしくてできないだろうと考えてしまう甘い人間である自分は、決してこの地で成功することはなさそうだなと思い知らされた瞬間です。

 

カオスモンキーというタイトルですが、本書を読む前には成功を掴もうと血走った目でシリコンバレーを縦横無尽に駆け巡る起業家や投資家たちのことを揶揄しているものかと思っていました。実際そういう面もあるとは思いますが、実在するソフトウェアに同じ名前をもつものがあるそうです。

 

カオスモンキーはネットフリックスが開発し、オープンソースで公開したソフトウェアで、うろダクトやウェブサイトが任意のサーバー障害(アドブロックのブログに起きたみたいなトラブル)にあったときに回復できるかテストするためのツールだ。

カオスモンキーの役割と名前を理解するために、次のような場面を思い描いてみてほしい。一匹のチンパンジーがデータセンターで大暴れしている。空調の利いた倉庫みたいな場所にぴかぴか点滅する端末が並んでいて、グーグルからフェイスブックまでありとあらゆるホストコンピューターがそろっている。チンパンジーはケーブルを引っこ抜いたり端末を投げつけたり、とにかくめちゃくちゃにする。ソフトウェアの「カオスモンキー」もバーチャルな世界で同じように暴れ、システムやプロセスを手当たり次第シャットダウンする。モンキーが引き起こす破壊行為というシステム障害に、フェイスブックのメッセージ機能だのグーグルのGメールだのスタートアップのブログだのといったサービスが持ちこたえられるかを見るのが目的だ。

象徴的に言えば、テクノロジー系の企業は社会にとってのカオスモンキーだ。うーバーならタクシーの営業許可、エアビーアンドビーなら従来のホテル業界、ティンダーなら出会いのスタイルという、どれも既成概念のケーブルを引っこ抜く行為にあたる。ベンチャー企業が大胆な発想で生み出したにわかづくりのソフトに、既存の業界がつぎつぎになぎ倒されていく。

 

下巻目次をみると、次の部のタイトルが「すばやく動いて物事を破壊せよ」。モンキーたちがさらにはちゃめちゃに動いていくことが期待できそうです。読み進めるのが楽しみです。

 

最後に、直接本の内容に大きく関わることではないのですが印象に残ったことがひとつ。それは著者の教養です。本書を読むと、歴史的なエピソードや文学作品からの引用が多いことに気づきます。

 

聖書からの引用やキリスト教関連の表現が多いのは著者がカトリック系の学校に通っていたことが要因かと思いますし、母親が図書館司書だったという背景があるとはいえ、2011年のシリコンバレーにおける企業同士の秘密保持契約の締結を、16~19世紀のユーラシア大陸の複雑な政治事情、外交情勢を例として語れるものでしょうか。カート・ヴォガネットやサマセット・モームから一節を引きつつビジネスを語るというところばど、著者の持つ教養の深さを端々に感じます。

 

この本に限らず海外の著者の作品ではこのように文学作品からの引用や、美術、歴史に関するエピソードが紹介されることが多いなと感じており、世界で一流とされる人間は自分たちの専門分野だけでなく、いわゆるリベラルアーツと呼ばれるものもしっかりと身につけているのだなと思います。

 

Youtubeではこの本について実際に著者が語っている動画がアップされています。1時間を超える長さでまだ私も見れていないのですが、備忘として紹介しておきます。

 

<7/13 追記>

下巻も読みましたが、上巻とはちょっとテイストが変わります。

サブタイトルに「フェイスブック乱闘編」とあるとおり、著者がフェイスブック広告のターゲティングメニューのプロダクトマネージャとして奮闘していた日々がメインのトピックになっています。

担当していたプロダクトの説明をするために、オンライン広告の仕組みやオンラインでの活動とオフライン(現実世界)での購買行動データの統合などちょっと専門的な内容も紹介されます。このあたりは業界の人であれば興味深い部分であるかもしれません。

特にフェイスブックIPOする前までのフェイスブック広告のターゲティング精度の正確さや企業ページへの「いいね!」やフォロワーの数が実際どれほどの意味を持っていたのかを率直に語る部分などは注目です。

 

上巻に続き、皮肉に満ちたユーモアのセンスは健在で、物語として面白いという本著の特徴は失われていませんので、もちろん業界外の方も読んで楽しい一冊になると思います。

 

鮫島、永遠なれ

2018年7月3日、W杯ベルギー戦敗北のショックも冷めやらぬ中、日付が変わる直前にさらにショックなニュースが飛び込んできました。

natalie.mu

www.akitashoten.co.jp

 

あまりのショックに思わず声が出ました。

 『鮫島、最後の十五日』は『バチバチ』『バチバチBURST』に続く、バチバチシリーズの第3部で、幕内力士となった主人公・鮫島鯉太郎の(おそらく最後の)一場所十五日を書いた物語です。

 

 

幕内力士としては小柄な体格の主人公が、相撲に対する熱意と真摯さで自分よりもはるかに大きな力士に全力でぶつかっていく熱い作品です。決して相撲を取るのに恵まれているとは言えない小柄な体格で、「相撲に選ばれなかった」という思いを抱きながらもひたむきに相撲に向き合う主人公・鮫島の姿に胸を打たれます。

 

取り組みの描写はすごい迫力です

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どの取り組みに対しても自分の命を燃やすかのように全力でぶつかり、勝利しながらもボロボロになっていく主人公の姿は、力士としての寿命が短いことを明確に物語っています。魅力的なライバルたちとの熱い熱い戦いに毎回興奮しつつも、その都度確実に近づいてくる悲劇の姿が見えるという、とても複雑な魅力を持った物語です。

 

私は本当にこの作品が大好きで大好きで、毎週木曜日はこのマンガを読むことが一番の楽しみになっていたと言っても過言ではありません(マジです)。

 

現在連載中のチャンピオン本誌では、まさに14日目の大関猛虎との取り組みの真っ最中でした。猛虎は当時高校生だった鮫島と地方巡業の土俵で戦って敗れており、鮫島にとってはそれが角界に入るほぼ直接のきっかけとなるという、鮫島とはとても深い縁のある人物です。力士としても超一流で、やはり鮫島は苦戦を強いられていました。直前の回ではやっと鮫島の反撃が始まるというところで終わっており、次の展開に対する期待が高まる回でした。

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間違いなく名作と言える作品であり、それだけに本当に残念です。『バチバチ』『BURST』『鮫島』をシリーズ通して何度読み返したかわかりません。登場する全てのキャラクターが魅力に溢れ、そのストーリーからは読むたびに「自分も頑張ろう」と力をもらってきました。

 

秋田書店の公式サイトの発表によると、7月12日発売の週刊少年チャンピオン33号掲載分が最終回となるとのことです。今週木曜日分に掲載があるとするとラスト2話。こんな形で、あまりにも突然に早すぎる最終回を迎えることになるとは思いもしませんでした。本当に残念でなりません...

 

<7/13追記>

昨日読んできました。最終回。

猛虎との激戦が終わり、身体はボロボロ、意識もはっきりとしているのかどうかわからない鮫島。

何かに呼び寄せられるように動き出した先には、横綱の姿。

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「呼んだか...?」

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十四日目 泡影 - 鮫島

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最高!クライマックスへの引きとしては最高すぎる。

続きが気になって夜も眠れない。

左下の一文が突きつける残酷な事実。

もうこの物語に続きはない....

残念!残念すぎる...

 

クリエイターの皆様、激務とは思いますがくれぐれもお身体をお大事に。

 

 

佐藤タカヒロ先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

 

 

 

アナログゲームプレイ偏愛「顧客が本当に必要だったもの」

反社会人サークル製作のゲーム『顧客が本当に必要だったものゲーム』がついに届きました。

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このゲームは今年2018春のゲームマーケットに彗星のように現れ、多くの業界人に衝撃を与えました。

togetter.com

 

そもそも「顧客が本当に必要だったもの」とは何なのでしょうか?IT業界に携わる人なら目にしたことがある人は少なくないかもしれません。ニコニコ大百科では下記のように説明されています。

「顧客が本当に必要だったもの」とは、ITビジネスにおける多難なシステム開発プロジェクトの姿を風刺した絵に登場する、オチの部分のフレーズ。顧客が期待した通りのシステムとして完成しなかった原因は、開発側の勝手な思い込みや都合の押し付けだと思いきや、そもそも最初に顧客が説明した要件からしてズレていた、というオチ。

つまり、顧客自身にも自分が必要とするものが分かっていなかったということ。(さらに踏み込んで言えば、開発者側もそのことに気付けず指摘できなかったということ。)

以下のような場面に分けられており、ブランコが設置された木のイラストが(IT業界向けとしては)オリジナルだが、絵を差し替えてIT以外のシーンでも使われている。ブランコの形態はソフトウェア・システムの構造・機能・使い勝手・規模などを比喩したものである。

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このようなジョークになるほど、ITビジネスではあるあるの現象なのだと言えます。ご想像の通り、これが起こった場合誰も幸せにはなりません。誰もが辛い、辛すぎる。

 

しかし当事者にとっての悲劇が周囲からは喜劇的に見えるというのはよくあることです。絶対に巻き込まれたくないけれど、ちょっと遠くから見ていたい。安全圏からカオスを眺めて楽しみたい。辛い現実をユーモアで包んで楽しみたい。このゲームはそんな皆様の為に存在します。私も飛びつきました。

 

このゲームは「要件カード」と「成果物カード」の2種類のカードを使ってプレイします。その名前から想像できるかもしれませんが、要件カードの指示をクリアしながら成果物を完成させていくことがこのゲームの進め方になります。ちなみにここで完成させる成果物は「ブランコの木」。

 

こちらが要件カード。どこかで見たことがあるような個性的な方々がそれぞれ自分の立場で好きなことを言っています。このギリギリを攻めるようなデザインがたまりません。

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こちらの関係者の皆々様の希望により、成果物はメチャメチャになります。ブランコの木というシンプルなものが、なんだかよくわからない巨大なキメラのようになっていく様には笑うしかありません。笑っても大丈夫です。少なくともこれはゲームなのですから....

 

また、ゲームは「顧客フェーズ」と「開発者フェーズ」を繰り返して進行します。顧客フェーズは要件追加がアクションになるのですが、定期的に要件追加が発生する仕様になっていることに震えます。「それって開発の前段階で定義しておくものじゃないの?」とか抜かすヤツは何もわかっていないド素人です。このリアリティこそがこのゲームを魅力的にしている重要な要素なのです。

 

最終的にプレイヤー全員の成果物カードがなくなったら終了です。成果物を作る為に自分が出したカードの、2枚以上隣接して塊になっているもの一枚につき1ポイント、そして入手した(=自分が満たした)要件カード一枚につき1ポイントです。最終的にもっともポイントが大きいプレイヤーが勝利となり、「顧客の達人」としてあがめられます。

ちなみにポイントの単位はYTK = やった感。もっともやった感を出した人物が評価され るという、そのリアリティに背筋が凍る思いです。顧客が欲しかったものを的確に出せたかどうかは関係ない。だって顧客の要件は全部満たしているのですから。ここまで世界観をリアルに近づけられる設定を散りばめてくるとは、反社会人サークル恐るべし。

 

これは貪欲に勝利を狙いにいくタイプのゲームではないでしょう。みんなでカオスな状況を楽しむというもので、IT開発のしんどさをネタにみんなで仲良くワイワイやるための平和的なゲームです。顧客の要件にいちいち答えてたらキリないよ、ということを身をもって知ることができるという点で、トレーニング用としても役に立つかもしれません。

 

激しくおすすめです。

 

hanshakaijin.booth.pm

 

新しいおカネの形とそれが可能にする未来社会 - これからを稼ごう 仮想通貨と未来のお金の話

「稼ごう」というタイトルではあるものの、この本は決してお金儲けの本ではありません。 もし財テクやお金儲けに関するヒントを求めているのであれば、この本を読むのは時間の無駄であると言えるでしょう。

本書の帯にて、 

仮想通貨が提示する「これから」の世界でお金の意味を問う

と紹介されている通り、仮想通貨という新しい形のお金が出現しつつある中でそもそもお金というものは何なのか、それがどのように変わろうとしているのかということを説明しています。

 

その上で、今話題になっているビットコインイーサリアムとは何なのか、どういう仕組みで動いているのか、どのような形で生まれたのか、これまでにどのような経緯があったのか、その裏にある思想は何か、このような仮想通貨が意味するものは何か、これによって変わるものは何なのか。本書はこれらの問いを全てカバーしています。主要な仮想通貨の歴史と重要な出来事についておさえておきたい人にとってはこの本が最高のガイドとなるでしょう。これから仮想通貨について知識を深めていきたい人にとっては最初に読むべき一冊です。

 

当然本書の多くのページがビットコインイーサリアムNEMといった仮想通貨の説明に割かれています。私が本書に手を伸ばしたのもスマートコントラクトについてしっかりと理解したいという、どちらかというと仮想通貨そのものに対する興味からでした。社会に対するインパクトに対しても、国際送金の効率化や社会の中のお金の流れの把握が可能になるなど、あくまでも既存の枠組みの中でのメリットについてしか注目していませんでした。

 

しかし実際に本書に目を通してみると、むしろ注目すべきなのは仮想通貨というテクノロジーによって私たちと国家、社会との関係がどう変わっていくかという部分だと思うようになりました。

 

通貨とどう付き合うかということは、国家とどう付き合うかということとほぼイコールの関係になります。というのも今私たちが使用しているお金というものは基本的に私たちが属している国家が発行し、コントロールしているものになり、ドルなどの一部例外を除き基本的にはその通貨を使用できる範囲も決まっています。通貨の価値は国に対する信用と紐付いているためです。そして、基本的に自分たちは使用する通貨を選べません(多くの場合、他国の通貨を持てたとしても決済手段としてそれを受け取ってくれる店はありません)。

 

それが、仮想通貨であれば数多くあるもののうち自分の好きなものを持つことができます。国が発行した通貨が気に入らなければ他の選択肢を取ることができるということです。筆者はそれを「自由」であると考え、より望ましい世界の姿と考えたといいます。

 

そして、ライブドア株の分割を繰り返すことで、どんどん株の単位は小さくなる。そうやって市場に出回るようになると、100万円ぐらい持ってないと買えなかった株が、10円、もしかしたら1円単位にまで価値が下がる時がくる。

これって、もう通貨のようだ。流動性を極限まで高くしていくと、株を通貨のように使えるのではないか。

仮にライブドアの従業員数が、何十万人になり、ワールドワイドなコングロマリットに育っていけば、その中に小売業があり、農業があるような仕組みができる。その中では、肉も野菜も、ライブドア株で買える。完全なエコシステムが完成するかもしれない。

言ってみれば、これはひとつのバーチャル国家だ。

サイズが大きくなりすぎた日本という国の中で、その役割を企業が肩代わりする時代がくるのではないか。

著者は いまから15年ほど前からこのようなことを考えていたといいます。今でこそ一国のGDPを上回るレベルの規模をもった企業が出現してきて、国よりも企業の方が信用度が高いという考えが少しずつ受け入れられてきたのかこのような考えを聞くことも少しずつ増えてきましたが、まだ一企業が国を差し置いて通貨のようなものを発行するとは夢にも思われない時代には著者のアイデアはあまりに先進的だったといえるでしょう。

 

リップルを活用することで国際送金にかかるコストを大幅に下げられるとか、キャッシュレスにすることで現金を扱うことに付随するコスト(発行や管理にかかる)を減らしたり、お金の流れを追跡できたりするという、あくまでも既存の枠組みのなかで仮想通貨を活用することのメリットに注目しがちですが、その本当の凄さというものは仮想通貨の数だけエコシステムが生まれ、どの経済圏を利用するかの選択肢がどんどん増えていくということにあると個人的には思います。

 

ただ少しだけネガティブな見方をすると、仮想通貨のように世界中で流通するスピードの早いもので作られた経済圏は、少しでも信用の高いものには世界中からどんどん参加者が増え(マネーが流れてきて)繁栄していき、逆に信用の低い経済圏はどんどん衰退に向かっていくと考えられます。もし新しい環境に上手く適応できず一つの経済圏で生きていくことしかできなければ、自分たちの経済圏が衰退していく時にはその運命を共にするしかありません。その結果、「勝ち組経済圏」と「負け組経済圏」の格差が出てくるのではという懸念があります。ただこれは仮想通貨というテクノロジーの問題ではなく経済システムの問題なので、こちらのシステムも新しくアップデートする必要があるだろうとも思います。

 

今後の経済がどう変わるか、その可能性について興味がある人はこの本を読むことで考えるヒントを多く得られると思います。

 

格差についての関連記事はこちら

 

モザンビークのリープフロッグ- 20億人の未来銀行

世界でも最も貧しい国の、電気も通っておらず農民がほぼ自給自足のような生活をしている村で「電子マネーを使った新しい銀行」を作ろうとしている人たちがいる。

環境と目標があまりに合致していなくて、とんちか何かのように聞こえるこの不思議な取り組みについて、その当事者が紹介しているのが本書「20億人の未来銀行」です。

 

20億人の未来銀行 ニッポンの起業家、電気のないアフリカの村で「電子マネー経済圏」を作る

 

アフリカ南東部の国、モザンビーク。日本から1万2000キロ離れたこの国は、ちょうどマダガスカル島と海を挟んで向き合うところに位置しています。人口は約3000万人。GDPは110億ドル(2016年、世界銀行)。日本円では約1兆1000億円です。2015年に発表されている東京都のGDP104兆3千億円なので、モザンビーク一国の経済規模は東京都の大体100分の1といえるでしょう。GDP約5兆円の川崎市と比べても、5分の1くらいです。

 

そんなところで起こっている変化はめざましく、村人はそれぞれSuicaのようなカードを持ち、それにお金をチャージして決済に使い始めています。電子マネーではチャージや決済の情報が全て記録できるため、誰がどのくらいの収入があり、どのくらい使用したが全てわかるようになっています。この人は堅実にお金の管理をしていて、あの人はお金を使いすぎる傾向にある、といったこともわかるようになり個人の信用情報がたまってきます。その溜まった信用情報を個人への融資に当たって活用するということができるようになりますが、これはいま中国でAlipayやWechatが行っていることであり日本でも最近動きが見え始めてきたものです。

 

trend.nikkeibp.co.jp

wired.jp

www.sankei.com

 

さらに、既存の銀行のシステムはもう現実に合わないものであるとして、金利を取らない「収益分配型モバイルバンク」というスキームを考え、実現させようとしています。まずはモザンビークで開始し、いずれは世界中に展開できるようにしたいとのことです。このように、世界でもっとも遅れているとみなされる地域でもっとも先進的なことが起こっているという、まさにリープフロッグと呼ぶべきことが進行しています。この話が面白くない訳がありません。

 

この事業は日本植物燃料という会社が手がけているものですが、その会社名から想像できる通りバイオ燃料の会社です。代表であり本書の著者である合田真さんはフィンテックを専門にしている訳ではありません。そもそもバイオ燃料の原料となるヤトロファという植物をモザンビークで生産するということを目的にしていたのですが、いつのまにかキオスクの経営や電子マネー決済のシステム構築をすることになっていたといいます。どういう経緯でそうなったのかは一見わかりにくいのですが、本書を読むとそれぞれが繋がっていることがわかります。ある種の「風がふくと桶屋が儲かる」的なストーリーになっているのが大きな魅力になっていると感じます。

 

そもそもは燃料を生産して販売しようとする計画だったのに、市場がないのでまずは市場を作ろうと電力供給のための電源として利用することを考えます。ただ無電化地域の村でいきなり電気が使えるようになったからといってすぐに需要が増えるわけもなく、インフラの整備もお金がかかりすぎてできません。そのためキオスクを設置し、そこで電気ランタンや製氷機で氷を作って売るというところから始めます。そのうちにキオスク売上金が消えていくという課題にぶつかって電子マネー決済を導入します。そうするとお客さん側である農民が持つ現金の取り扱いに関する課題が見つかり、電子マネーによる銀行というコンセプトを思いつく....というように、ひとつ課題を解決するとその次の課題が出てくるということを繰り返した結果最初の想定とは全く違うことをやっているという結果になっています。マンガ以上にドラマティックなストーリー展開で、その展開の速さにグイグイと引き込まれます。

 

そもそも本書の著者である合田さんがずっとそういう生き方をしているようです。なんとなく叔父さんの意見を聞いて進んだ京大の法学部に6年在籍後中退し、その後他と比べて給料が多いという理由で商品先物取引の会社へ就職。顧客のひとりが新会社を立ち上げる際に引き抜きの声をかけられ転職。その会社はその後経営が傾き崩壊寸前になるのですが、なんとその会社を5000万円で購入。その後クレジットカードや物流に関する事業に取り組みます。その仕事の一環で債権回収を行っていた際に訪れた会社でバイオディーゼル燃料のタンクを目にします。これがきっかけで著者はバイオ燃料ビジネスに飛び込んでいきます。

 

このように方向転換の多い人生だったからこそ、モザンビークでの状況に合わせて柔軟に対応することができているのでしょう。村への電力供給のために植物燃料を使用するという事業は、最終的に「村にそこまで電力需要がない」という理由でソーラーパネルの利用に切り替わっています。常に成功し続けてきたわけでは決してなく、日本で手がけたバイオ燃料事業が大失敗に終わり、毎日友人の会社にふらっと遊びに行って¥500もらって1日過ごすという時期もあったそうです。(このエピソードには迫力があります)

 

また、本書を読んでいると文化も考え方も全く違う土地で事業を進めていくことの大変さが端々から伝わってくるのですが、こういう言い方もなんですがそれが本書を読み物として魅力的にしています。主人公がピンチに陥いるときこそ盛り上がるというイメージです。あとがきにある下記のエピソードはなかなか痺れました。

以前、あるモザンビーク人スタッフが会社のお金を着服したことがありました。その時、私は「解雇して警察に突き出した上で回収を考えればいい」と安易に指示をしたのです。ところが、日本人スタッフから、「それをやると、うちのモザンビーク人スタッフ全員が解雇でいなくなってしまいます」と諭されました。

この他にも、著者が盗まれた会社のお金を追っていくうち、実は自分がそのお金でおごられていたことに気づくといったキレイなオチがつくような喜劇的エピソードもあり、読み物として普通に面白いのです。裏返すと、日本の常識が全く通用しない土地でビジネスを進めるのはこのような困難になんども対応しないといけないという悲劇的なリアリティがそこにあるのですが....

 

本書の帯には成毛眞氏の「この壮大なリアリティは学びの宝庫だ」という推薦文がありますが、本当にそのとおりです。成功した部分やキレイなことばかりにフォーカスしているわけではなく、うまく行かなかった部分、苦労したエピソードが隠されることなく披露されています。もしかしたらあらゆるところで困難がありとても隠しきれないという事情があるのかもしれませんが、それもひとつのリアリティなのでしょう。

 

最後に2つだけ。

 

あえてここでは深く書きませんが、なぜ合田さんが新しい銀行システムを作ろうとしているか、その背景にある問題意識も非常に興味ふかいものになっています。世界を「現実」と「ものがたり」で捉え、いま世界中の人が信じている「ものがたり」が「現実」に合わなくなってきているという彼の主張は強い説得力があります。この主張を受けて自分はどう考えるか、どう行動するかを考えてみても面白いと思います。(この「ものがたり」という考えは「サピエンス全史」っぽいなとおもったら本書のあとがきで紹介されていたのでやはりと思いました)

 

もう一つ、個人的に刺さったのは「最先端かどうかより、大切なのは現場で使えるかどうか」として問題解決をテクノロジーありきで考えないという著者の姿勢でした。

あくまでも現場の課題を解決するのに現実的に取れる手段として何がふさわしいかというスタンスで評価するというのは当然のことのように思えます。ただ私が仕事をしていく上でこのスタンスを常に持てているかと考えた時に大いに反省すべきところがあると感じました。特に私が勤めている会社はテクノロジーで世の中を変えていくということを強く謳っており、革新的なサービスを次々提供しています。その中で働く人間として「こういうことが技術的にできるようになったのでとりあえずやってみましょう」という形でお客様とお話することはなかったかと自身を振り返るよいきっかけともなりました。

 

蛇足ですが、合田さんご自身は新しいものにはとりあえず飛びついとけというスタンスだそうです。ビットコインについて、ノートパソコンでマイニングができた時代には実際にマイニングをしていたと仰ってますが、それって10年くらい前からということなのでは...?とそのアンテナ感度の高さに静かに戦慄を覚えました。

 

新しいアイデアにアンテナを貼っておくこと、気になったものは実際に手を動かしてやってみるというこの2点はこの本から学べたことのなかでもっとも実践が簡単なものなので、今後これは忘れないでおこうと胸に刻みました。

 

以上、個人的に非常に学びのあった一冊でした。普通に物語として面白く読めるのでおすすめです

 

<追記>

浅学にして知らなかったのですが、過去様々なメディアで合田さんの取り組みは取り上げられていました。本書とあわせて読むことでモザンビークでの取り組みをより深く知ることができるかもしれません。

wired.jp

www.lifehacker.jp

wisdom.nec.com

 

 

本書で紹介されていた本はこちら

 

 

 

 

『サルたちの狂宴』が面白い

まだp40くらいしか読めていないけれど、この時点ですでに面白い。

 

サルたちの狂宴 上 ーーシリコンバレー修業篇 

 

プロローグは2012年4月のFacebookでの会議が場面になっている。新しいFacebook広告プロダクト案についてマーク・ザッカーバーグのご意向を伺うという会議で、ここでFacebookはweb閲覧記録など自社サービスの外で集められたデータをもとにFacebook内の広告を配信できるようにする決定を下す。

 

このような重要な意思決定がなされるタイミングになんども立ち会ったであろう著者が分析する、意思決定のための要素が非常に納得できて震える。

上層部が下す、大勢の人を動かし巨額の売り上げを左右するような大きな決定というのは、結局次の要素で決まる。すなわち、直観的な感覚、そこにいたるまでに受け継がれた政治的な影響力、そして多忙かせっかちか無関心な(あるいはその全部があてはまる)相手を納得させられるメッセージを発信する力、である。 

仕事をでこういうことを感じたばかりのタイミングだったので、この言葉はブッ刺さりました。

 

今は第一章を読み進めてます。時は2007年、場所はゴールドマン・サックス。著者がクオンツとして働いていたが舞台になっています。この章も進入社員たちの体育会系イベントとそれを賭けの対象にする先輩社員のエピソードが紹介されるなどすでにめちゃくちゃ面白い。

 

読み進めるのが楽しみな一冊です。